昇段レポート 鈴木 順子 初段(2013年2月24日取得)
鈴木 順子
初段(福島県門馬道場)2013年2月24日取得
私が門馬道場と出会ったきっかけは、スポーツクラブの中に開設された空手の教室からでした。
当時、洋菓子店で早朝から夜遅くまで働く生活をしていた時、店のオーナーが過労で倒れ、救急車で搬送されそのまま帰らぬ人となりました。自分を開花させたいと転々と職をまわった末やっと見つけた店でしたので、支柱を失った精神的ショックと、ノウハウを全て教わり手に職をつけようとしていた自身の目標も見失い、心身共に絶不調に陥り店を辞めて間もない頃の出会いでした。
その頃の私は、三十代を目の前にして、勢いがあったはずの気力・体力・行動力が徐々に失われていく喪失感を覚えており、自分に対して半ば失望し諦めの気持ちを持っておりました。反面、まだ自分の可能性を信じたいという思いもあり、まずは長年の不摂生な生活で衰えた基礎体力を戻そうとスポーツクラブへ足を運びました。
そこでふと目に止まったのが岩崎菜穂子さんの『極真空手』のクラスだったのです。そして体験して間もない頃、門馬智幸師範が直々にクラブへ指導をしにおいでくださりました。その時の印象は、今でも忘れられません...。
岩崎さんは女性ながら空手の指導に溢れんばかりの情熱を燃やし、空手の魅力を熱く語るパワー溢れる素敵な方でしたし、門馬師範は更にその上をゆくオーラを放ち、驚くべき身体能力は勿論の事、ユーモアと優しさ、包容力を併せ持ち、内に秘めた強靭さも垣間見れ、何か底知れぬ力を感じさせる方でした。
人生に行き詰まっていた自分にとっては非常に衝撃的で新鮮な出会いでした。
お二人の人柄、考え方、その存在感に一気に魅了され、極真空手とは何か...その予備知識も何もないまま、私は迷わず門馬道場に入門しました。
道場の稽古の日々は、反復する身体の鍛錬に加え、生きてゆくのに大切な心の鍛錬も必然的に行われていることを知りました。
ひたむきな努力、努力しても報われない現実に対しての嫉妬や劣等感との戦い、決してあきらめない強い心、努力が報われた時の達成感、感謝の気持ち、労り合い育みあう心、尊敬の念...こうした経験を、義務や強制ではなく自分の心の持ちようによって自身でいくらでも取得する事が出来るのが空手道場の大いなる魅力であり、自分もその中の一人として前向きに存在していることに、稽古の辛さ以上の幸せを感じておりました。
今回、自分と同じ郡山地区初期メンバーとして、共に沢山の汗を流し、涙を流し、かけがえのない数々の経験を共にした仲間が一緒に黒帯審査に挑み昇段致しました。これほど感慨深いものはありません...。
十人組手を終え審査が終了した時は、自分が極真の黒帯を取得したという感動よりも、門馬師範や道場の先輩方との出会いから始まり、仲間と過ごしてきた数々の稽古の日々が走馬灯のように思い出され、関わってくださった多くの方々に対し深い感謝の気持ちで胸が一杯になりました。といいますのも、道場に入門して八年余...
その間決して順調とは言えない様々な事がありました。病気やその他、道場と距離を置かなければならない辛い時期も幾度かありました。そのたびに折れそうな自分の心を支えてくださったのは、いつも道場の皆様方でした。
私がこの度、無事黒帯を取得出来ましたのは、門馬師範はじめ、常に数歩前を歩き導いてくださった諸先輩方の存在、共に汗を流す道場門下生の仲間の皆さん、新しい発見と刺激を与えてくれる子供達、そして、いつも影で支え応援してくださる保護者さん達の存在があったからこそです。
皆様に心からの感謝を申し上げます。本当にありがとうございました。
また、寒く天候の悪い中、わざわざ足をお運びいただきお手伝いくださった各道場の皆様方にも、この場をお借りして深く感謝を申し上げます。
最後に、このようにして与えて頂いた貴重な経験や感動を次は黒帯たる自分が次世代の方々へ引き継いでいかなければならないこの大切な時期に、一身上の都合により再び空手に距離を置いてしまっている自分がおり、非常なる矛盾を自分自身の中に感じております。
それでも今は、自分の選択した道を前へ進むしかないと思っております。この矛盾に満ちた社会の中でも、心折れることなくどれだけ自分の理想と信念を保ち続ける事が出来るか、これもまた修行と思い、日々葛藤しながらも少しずつ前へ進みたいと思います。
押忍